独居の男性のご利用者、Kさんが何より楽しみにされているのが入浴で、
「お風呂がいちばん。こんなゆっくり湯船に入れて、有難いことだ」と、毎回言ってくれる。
そんなKさんだったが、ある日、ベッドから落ちてしまったという。幸い大きな怪我もなく、元気そうだったが、歩くのが辛いと言う。
食事は大丈夫だろうか? おトイレは? 不安な思いをしてないだろうか?
と、思い立ったが吉日、すぐに行動できるのが小規模多機能型居宅介護の良いところで、その日は、朝、昼、夕と訪問に伺った。
「大丈夫ですか? どこか痛いとことかあります?」
「いや、痛いとこはないけど、歩くのが辛いね」
「食欲はありますか? 今日のお昼はKさんが好きなお魚ですよ」
「…うーん、動いてないからかな。あんまり美味しくないや」
と、やはりいつもとは違う雰囲気で弱気になっていた。
しかし夕方の訪問で、そろそろ失礼させて頂こうと玄関先まで向かおうとすると、突然Kさんに呼び止められた。
「Oさん! ごめんね。これ、あの髪を束ねてる女性スタッフの…Mさん! Mさんに渡しておいて」と何かを手渡された。
それは、Mスタッフが集めていたベルマークだった。
そういえば、Kさんは菓子パンをよく食べる方で、それに付属しているベルマークをよく、Mスタッフにあげていたことを思い出した。
「できていたことができなくなるかもしれない」そんな漠然とした不安な思いをしていたと思うし、まさにご自身の「緊急時」だったと思う。
そんな中、KさんはMスタッフのことを思いやっていた。
きっと、Mスタッフの喜ぶ顔を思い浮かべながら。
「何から何までお世話になりっぱなしで、申し訳ない」とKさんは言うが、そんなことはない。
Kさんは過去にもたくさんの緊急時があったと思う。その時も誰かのことを思いやって、助けたり、笑顔にさせたりしていたに違いない。
from. ハウススタッフ