基本的に送迎は車だが、Wさんは徒歩で通ってきている。
「足腰が弱まらないように、徒歩での送迎にしてほしい」というご家族の要望もあるが、Wさん自身も散歩は好きなようだ。
散歩中の犬がいれば、「あらぁ〜可愛いわねぇ〜」と駆け寄ることもあるし、トンボが飛んでいれば立ち止まって目で追いかけていることもある。
「動物お好きなんですね」
「だいっっすきよ! 可愛いじゃないの〜。あなたは?」
「動物は好きですけど、虫は苦手なんですよ…。羽音を立てて飛ぶ虫は怖いです」
「何言ってるのよ。虫はあなたより小さいのに、何が怖いのよ」
そんな会話をしながら、その日も歩いて帰宅した。
ご自宅まで送り、「じゃあ、また明日!」とあいさつをしたとき、突然小雨が降ってきた。
Wさんは「あなた、傘を持ってないじゃない。小雨でも濡れると風邪引くわよ。傘貸してあげるわよ」
と、傘立てにあるたくさんの傘から、「これは壊れてるから貸せない」「これはあなたには小さいかしら」と選んでくれた。
「はい、これ。私、明日も『つどい』に来るから、その時に返してもらえればいいのよ」と言って…。
帰り道、「Wさんは『つどい』では『ご利用者』だけど、なんか今日は『顔見知りのご近所さん』みたいに感じたなぁ」と思った。
困ったときに、声をかけてくれるご近所さん。
今の時代、ご近所付き合いは昔より希薄になっていると何かの本で読んだことがあるが、ここではそんなことないと感じた。